パオーンtimes

VOL 32|2026年04月号

●Translation: 離婚を知り、老化を知らない男 ●Learning: 夢判断(7)夢の刺激と夢の源泉(3)内的(器質的)身体刺激

Translation

 

~時代と海を超えた、はたらく人々からの手紙~

1974年、アメリカで『仕事』(Working)という
分厚い本(約800ページ)が刊行されました。
作家やメディアで活躍するStuds Terkelが
膨大な数の「普通の人々」に直接会いに出向き、
彼らの自宅やレストラン、ときにはバーなどで、
仕事に関する話を聞いたインタビュー集です。
仕事とは? 生きるとは? 人間とは?
血の通った教科書のようなこの本から、
毎月一人ずつ、一部抜粋・翻訳してお届けします。

 

46歳、独身、離婚歴あり。28歳のときに歯科医の学校に入学した、遅咲きの歯医者さん。

「ぼくらが診る口の中の状況は理想的とは言えないのがふつうだ。患者が協力的でなく、口元を動かしたり唾液の量が多かったりすると、仕事をやり切るのが大変になる。不安になるよ。治療が終わってもその内容に満足できなかったとき、自分以外の人にはそんなことわからなくても、自分だけはわかっているんだから。自分にとって最悪の批評家は自分なんだ。

『屋根の上のバイオリン弾き』を観に行った。主人公テヴィエ役のトポルがクロースアップで映し出されたとき、歯も映って、部分入れ歯が見えた。それを見て彼も人間なんだなって思った。俳優のクラーク・ゲーブルは、前歯が一本しかなかった時期があるって知ってる? 誰も見たことはないけどね。歯からその人の人生がわかるのさ。

ぼくの人生は離婚してから完全に変わった。結婚している誰かがこのことについてぼくに語ろうものなら、ぼくは面と向かって嘘つきだと言うだろうね。本当に信じがたいことだよ。ふざけてる。歯医者の椅子に座っているのはストレスだし、診察するぼくはその人がどんな人か気にしていない。すると、その人は無防備になる。ふだんよりもっと本性をさらけ出すようになるんだ。

たとえ資格をあげると言われても、ぼくは外科医にはならなかっただろうね。本当だよ。歯科医よりもいい職業をぼくは知らない。自分のボスは自分で、時間も自分でコントロールできるし、世界中どこでも訓練できる。仕事上のあらゆる判断において、生死にかかわるような重い責任はない。理想的な労働環境だよ。肉体的にはきついけど、それは問題じゃない。

歯科医としての絶頂期があると言われたことがあるけど、それがどんな時期なのかぼくにはわからない。ぼくの前任者は高齢の男性で、手が震えたりしてたよ。将来、そういうことが起こるかもしれないことはわかってる。でも、自分の中のイメージをアップデートし続けていれば、加齢による要因は減らせると思ってるんだ。若くても年老いてるような男たちをたくさん見てきたけど、ぼくは彼らと同じ道は選ばないつもりだよ。」

~今月のリアルヴォイス~
“It is really unbelievable. The banter.”
(信じられない。ふざけてるよ。)
*banter=悪意のない冗談、ひやかし、からかい、ふざけ

【出典】
Studs Terkel,
Working: People talk About What They Do All Day and How They Feel About What They Do,
New York: Ballantine Books, 1985, pp. 328-331.

 

Learning

 

~フロイト博士の処方箋~

今から100年以上も前のオーストリアで
精神科医のフロイトが作りあげた精神分析学。
その理論は一見むずかしそうですが、
じつは日常へのヒントにあふれていて、
誰もが親しみを感じられる内容です。
でもやっぱりその著作はややむずかしめ。
そんな著作を一冊ずつ取りあげて、
できるだけじっくり丁寧に紹介していきます。

 

体の外部から与えられる刺激と同様に、病気のときに体の内部で生じる疼痛刺激もまた、夢の源泉になりうる。しかも、シュトリュムペルが指摘しているように、「睡眠状態においては、覚醒時におけるよりも、自分のからだについてはるかに深い、また広い感覚意識を持つにいたる」。

古代から人はそのことに注目しており、すでにアリストテレスが、人は夢で覚醒時には気づかなかった病気を知ることができるといっている。夢の予言力は信じなくても、病気の予告という点については、その意義を認めている医者もいる。

心臓病患者、肺結核患者、消化器系統の疾患をもつ患者など、それぞれが障害のある個所にちなんだ夢をみることは、一般に認められている。夢の文献をひもとくと、自身の病気が夢の内容に及ぼす影響にひきつけられ、夢を研究するようになった者もいる。

すでに述べた外的(客観的)感覚興奮や内的(主観的)感覚興奮に、さらにこのような内的(器質的)身体刺激が加われば、夢の源泉の種類は豊富になったといえよう。しかし忘れてならないのは、フロイトが問題にしているのは、ある疾患を持つ者が見る特別な夢ではなく、健康なありふれた人間のありふれた夢であり、その源泉がはたしてどこにあるのかということである。

内的身体刺激に着目すると、枯れることを知らぬ夢源泉があることに気づく。覚醒時には「漠然とした一般的な感じ」で知覚するもの、医者に言わせれば「漠然たる感情」というものである。それを作りあげるためには、じつのところ体のすべての器官組織がかかわっている。そして、睡眠時には心が外界から逸らされるため、そうした感情が強い影響力を持つようになり、「もっとも強力な、同時にもっとも普通の」夢の源泉になるのである。

したがって、以降問題となるのは、夢の源泉が何かではなく、“器官刺激はどういう法則で夢へと翻訳されるか”という点のみである。

からだの核をなす「内臓自覚」を包含する暗闇と、夢発生の暗闇とは、一緒にして考えてみないわけにはいかないほどよく似ている。そのうえ、器官刺激を夢の源泉とする考え方は、夢と精神障害とを一致させることも可能である。精神障害を成立させるのもまた、「漠然たる感情」や、内部諸器官から発する刺激だからである。

器官刺激はどんな法則で夢へと翻訳されるのか。これに関して、ショーペンハウアーの考え方に賛成する研究家もいる。私たちの世界像は、外から与えられる印象が、「知性」によって時間・空間・因果律の形式に当てはめられて形成される。夢もまた、知性のそうした働きによって形成されるというのだ。

あるいは、精神科医クラウスは、夢の中で人は、ある刺激に対して、覚醒時におけるように刺激そのものに注意を向けるのではなく、刺激によって作りだされた表象のほうに注意を向けるとしている。そのため、ある身体刺激をもとにしながらも「変質」した夢が形成されるというのである。

「類型的」な夢判断もある。たとえば、歯の抜ける夢は「歯の刺激」がもとになる。シュトリュムペルによれば、飛ぶ夢は、上下する肺から出る刺激量を、飛ぶという感覚に心が置き換えた結果であるという。

しかしながら、飛ぶ夢がそうした源泉をもっていると仮定した場合、まず胸部の皮膚感覚が無意識化されていなければならないだろう。それによって初めて「飛ぶ」という別の感覚に置き換えることが可能になる。このように、これといった理由もなく器官感覚を度外視している点が、こうした類型的な夢の解釈にしばしば起こることであり、弱点である。

M・シモンやムルリ・ヴォルも、夢の成立と身体刺激の法則を明らかにしようとした。しかし、いずれの結論にもフロイトは納得できない。いわく、「身体刺激理論もまた、作り出される夢の外見上の自由を完全には消し去ることはできない」のだった。

【参考・引用文献】
ジークムント・フロイト著、高橋義孝訳
『夢判断(上)』(1969年、新潮社)
pp. 64-73.