
VOL 30|2026年02月号

~時代と海を超えた、はたらく人々からの手紙~

大きな工業都市の郊外にある美容院「ミスター・エドワード」を経営。
「彼女(Hazel)と一緒に働いてるよ。ここで店を始めてもう25年近くだね。ヘアスタイリストに求められることは増えていて、その分報酬も上がってる。専門化する医者みたいなものだよ。それに見合うようにふるまわなきゃいけない。つまり、「ミスター・エドワード」らしくね。
この業界にはビューティーオペレーター、ヘアドレッサー、ヘアスタイリストがいるけど、ヘアスタイリストのほうがビューティーオペレーターより優れてる。ぼさぼさの髪でやってきた人に「流行りのアンナ・メイ・ウォンみたいな中国風のスタイルに似合う髪型にできるかしら」と聞かれても、ビューティーオペレーターには分からないのさ。
手術台の上で死んでる患者を前にした医者みたいな気分だよ。ぼくがどうにかしてあげないといけない。何を間違えた? なぜ適切に処置できなかった? ビューティーオペレーターはそんなの気にしないだろうけどね。そうやって考えることがぼくは楽しいんだ。たとえ得られるお金が今より少なかったとしても、この仕事をやると思うよ。
(インタビュアー:時には客に反感を覚えることも?)
しょっちゅうだよ。以前、客を一人失ったこともあるよ。彼女はドイツ出身で、たまたまそこへ、ユダヤ人であることが一目でわかるような客が居合わせたんだ。ユダヤ人の客は、「私はフォルクスワーゲンはけっして買わないわ。過去に彼らが私たちにやったことがその理由よ」と言った。するとドイツ人の客は「私が何をしたというの? 私は当時子供だったわ」と返した。そう、次に出た言葉は「ナチ」さ。ここでは、どちらか一方の客を失ってしまうことから逃げられないのさ。」
~今月のリアルヴォイス~
“So here I’m bound to lose one customer.”
(だからここでは必ず客をうしなってしまうのさ。)
*be bound to ~:~する義務がある、確かに~する
【出典】
Studs Terkel,
Working: People talk About What They Do All Day and How They Feel About What They Do,
New York: Ballantine Books, 1985, pp. 317-324.

~フロイト博士の処方箋~

年末年始にイギリスへ一人旅に行ってきました。その道中、ロンドンにあるフロイト博物館を訪れたので、今月は番外編としてそのときの様子をお届けします。
上のWorkingの連載でも出てきましたが、フロイトはユダヤ系の出身でした。そのため、晩年になって、ナチスドイツから逃れるために故郷のウィーンを離れてロンドンへ移り住みました。そのときの家が保存され、一般に公開されているのが「フロイト博物館」です。
予定していた日、博物館へ向かう前に、まずは早起きしてガイドブックに載っていた蚤の市へ。YouTubeでいつも見ていて憧れていたヨーロッパの蚤の市。わくわくしながら出かけたものの、前日の夜からの雨のせいか、到着時はまだ準備中で出店はほとんどなく、閑散としていました。

残念。「また次の楽しみだな~」と切りかえて、いよいよ博物館を目指します。
しかし、とにかく寒いのです(2度)。ヨーロッパの寒さは、ユニクロのダウンではとてもじゃないけど太刀打ちできないと知りました。天気はいいものの路面も少し凍っていて、気をつけないと滑りそう。博物館の最寄り駅に降り立ち、徒歩で向かう途中で見かけたカフェにたまらず非難しました。

陽気なイタリア系のおじさんが切り盛りしていた居心地のいいカフェ。コーヒーを飲んでいたら、おじさんから「ねえ、これ見て」と声をかけられ、「これ何かわかる?」「いや…」「スープメーカーだよ。野菜スープを作ってるんだ」「へぇ、いいですね」と話したりして、身も心も温まりました。
そんなこんなで無事に到着。

ほんとに来たのかー!感動にふるえました。

ここで患者が寝っ転がって治療を受けた。

思索にふけったテーブルもそのまま残っています。

日本人の学者や医師とも親交があったフロイト。

ダリのアイドルでもあった。

フロイトが実際に身につけていたもの。

こじんまりとしていて居心地の良さそうな庭。
博物館とはいえ、高級そうという以外にはなんの変哲もない住宅街の、静かな一角にある一軒家でしたが、いろんな国の人がひっきりなしに訪れていて、当然ですが、改めてフロイトの偉大さを感じました。そんな偉大な人の家に行けたこと、自分の興味にしたがって自由に移動できる平和な世界であること、感謝の気持ちでいっぱいです。気持ちを新たに、これからも「パオ~んTIMES」の更新に取り組んでいきます!